楽になって、たずねられるままに素直に返事をした。
「ここの村の若い衆はな、――」
 と老人は言った。
「そりゃあ真面目じゃよ。じゃが、真面目すぎて、おりおりこの老人をびっくりさせることもあるんじゃ。今夜も旅の泥棒が村にはいりこんだ、と言って騒いでな。わしもそれで今まで起きて待っていたわけじゃが、その泥棒というのがあんた方だったんじゃ。はっはっはっ。」
 三人はしきりに頭をかいた。
 やがて里芋が焼け、話がいよいよはずんだ。
 老人は、「若いうちは無茶もええが、筋金《すじがね》の通らん無茶は困るな。」と言った。「あすはわしが案内してええところを見せてやる。」とも言った。また、「そろそろ引きかえして、日田町に一晩泊り、そこから頼山陽を学んで筑水下りをやってみてはどうじゃな。」とも言った。
 時計はとうとう一時を二十分ほどもまわってしまった。それに気づくと、老人は、
「さあ、もう今夜はこのくらいにして、おやすみ。寝床はめいめいでのべてな。……夜具はこの中に沢山はいっているから、すきなだけ重ねるがええ。」
 と、うしろの押入の戸をあけて見せ、
「炉の中に夜具を落したり、足をつっこんだりしないよ
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