ていた。
次郎たちを玄関の近くに待たして、二三人の青年が勝手の方にまわった。しばらくすると、
「ほう、三人、……そうか、そうか。」
と、奥の方からさびた男の声がして、やがて玄関の板戸ががらりと開いた。
「さあ、お上り。」
そう言ったのは、もう八十にも近いかと思われる、髪の真白な、面長の老人だった。
次郎は、山奥に隠栖《いんせい》している剣道の達人をでも見るような気がした。彼は、何かの本で、宮本武蔵が敦賀の山中に伊藤一刀斉を訪ねて行った時のことを読んだことがあったが、それを思い出しながら、おずおず大沢と恭一のあとについて玄関をあがった。
通されたのは、大きな炉《ろ》の切ってある十畳ほどの広い部屋だった。老人は、
「さあ、あぐらをかいておあたり。寒かったろうな。……何でも、今きくと、藁小屋に寝ていたそうじゃが、あんなところで眠れるかの。」
と、自分も炉のはたに坐って、茶をいれ出した。
「ふとんより温かいです。」
大沢が朴訥《ぼくとつ》に答えた。
「ほう。そんなもんかの。で、飯はどうした、まだたべんじゃろ。」
と、老人は柱時計を見て、
「今から炊《た》かしてもええが、もうみん
前へ
次へ
全243ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング