たんじゃよ。あけてみい。」
 と誰かが命ずるように言った。
 戸ががらりとあくと、提灯の灯らしい、黄色い明りが、屋根うらの煤けた竹をうっすらと光らした。それが、闇に慣れた三人の眼には、眩ゆいように感じられた。
「おや、一人ではねえぞ。あいつは靴じゃったが、下駄もある。」
「靴が二足あるでねえか。すると三人じゃよ。」
「そうじゃ、たしかに三人じゃ。ようし、のがすなっ。一人ものがすなっ。」
 誰かが変に力んだ声で言った。
「おい、書生、にせ学生、出て来いっ。」
「出て来んと火をつけるぞっ。」
 大沢が、その時、途方もない大きなあくびをして起きあがった。すると、下の騒ぎは急にぴたりとしずまった。次郎は、その瞬間、何か最後の決意といったようなものを感じて、全身が熱くなるのを覚えた。
「兄さん、起きよう。」
 言うなり、彼ははね起きた。大沢は、しかし、すぐ彼の肩を押さえ、低い声で、
「待て、待て、僕が会ってみるから。」
 次郎は何か叱られたような、それでいて、ほっとした気持だった。
 間もなく、大沢は積藁の端のところまではって行ったが、
「どうもすみません。しかし、僕たちは中学生です。決して怪し
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