の悪いところをもぞもぞと直しながら、
「僕の人相では、やはり次郎君のような可憐《かれん》な感じがしないんだね。年をとっていると損だよ。こんな時には。」
 恭一が吹き出した。次郎は、これまで三晩とも、大沢が宿の交渉をはじめると、女の人がきまったように自分の方を見ながら、何かと同情するようなことを言ってくれたのを思い出し、くすぐったいような、恥ずかしいような、そして何かみじめなような気持になるのだった。
「本田だと、僕よりはいくらか可憐に見えるかもしれんが、それでも、中学も四年になると、やはり物騒視されるね。」
 と、大沢は、やっと体が藁の中に落ちついたらしく、静かになって、
「僕たちが、三晩とも無事に泊れたのは、恐らく次郎君のおかげだったんだよ。僕の交渉が成功したとばかり思っていたんだが。」
 恭一が、ふふふと笑った。
「考えてみると、やはりそれも無計画の計画だったんだ。人生って妙なもんだね。」
 大沢はしんみりした調子でそう言って、急に口をつぐんだ。
「そりゃあ、どういう意味なんだい。」
 恭一が、しばらくして、思い出したようにたずねた。
「人生を動かして行くほんとうの力は、案外僕たち
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