し行ったらきっと家が見つかるだろう。このぐらいの路がついていて、三里も五里も人が住んでいないはずはないんだよ。」
 大沢は励ますように言った。次郎は答えなかった。すると恭一が急に立ちどまって、
「引きかえした方がよかあないかなあ。」
「さっきの村までかい。」
 と、大沢も立ちどまって、
「しかし、あれからもう二里はたしかに歩いたんだぜ。」
 次郎は、もうその時には、路ばたの木の根に腰をおろし、二人の顔を食い入るように見つめていた。
 三人が、この冬の真最中《まっさいちゅう》に、「筑後川上流探検」――彼らはそう呼んでいた――をはじめてから、すでに四日目である。探検とはいっても、べつに周到な計画のもとにやりはじめたのではなく、三人とも地図一枚も持っていなかった。久留米までは汽車で来たが、それからは川に沿って路のあるところを、本流だか支流だかの見境もなく、ただやたらに奥へ奥へと歩き、そして、日が暮れそうになると、行当りばったりに、寺があれば寺、それがなければ農家に頼んで泊めてもらい、翌朝弁当を作ってもらって、一人あたりなにがしかのお礼を置いて来るといったやり方だった。何でも、第二学期の試験が
前へ 次へ
全243ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング