からの力と、周囲の人々の外からの力とによって、ともかくもそれを切り抜けることが出来た。そして間もなく待望の中学にはいることになったが、その第一日に上級生からうけた無法な暴行は、幼年時代から彼の心に芽ぐみつつあった正義感を一挙に目ざめさせた。同時に彼の関心の中心は家庭から学校に移り、小さいながらも、一つの「社会」が、彼の前にそろそろとその姿を現わしはじめたのである。
彼の正義感は、葉隠四誓願の一つであり、そのまま校訓の一つともなっていた「大慈悲」の精神と結びついて、彼をして、半ば無意識のうちに「愛せられる喜び」から「愛する喜び」へと、その求むる心を転ぜしめていた。そして、彼が、兄の親友で、「親爺」の綽名《あだな》で生徒間に敬愛されていた大沢と相識ることを得たことは、正義と慈悲への彼の歩みを、一層強健なものにしたのである。
そのうちに、彼は、ある日、はしなくも、卑劣な一上級生によって、忍びがたい侮辱を加えられ、ついに敢然《かんぜん》として立ちあがることになった。この時、彼は、彼の手に小さな兇器《きょうき》をさえ握っていた。そして、彼の唇からほとばしり出た正義と公憤の言葉は、卑劣な暴力に
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