、校長がそのあとにのべた言葉だった。
「諸君は、今後、いつ先生と再会の期があるかわからないが、一たび結ばれた師弟の縁は永久に消えるものではない。それは親子の縁が永久であるのと同様である。諸君が将来、社会的にどんな高い地位につこうと、或はその反対に、どんな逆境に沈もうと、宝鏡先生はやはり諸君の先生として、諸君を見て下さるだろう。私は、諸君が将来どこかで先生の膝下に参じ、過去の思い出を語りあい、更に何かとお教えを乞う機会があることを確信する。」
次郎は、変に悲しいような気持になって、首を垂れた。
やがて宝鏡先生が校長に代って壇に立ったが、その顔はいくぶん蒼ざめて硬《こわ》ばっていた。先生は、先ず手巾《ハンカチ》で顔の汗をふき、どこを見るともなく、その大きな眼をきょろきょろさせた。それから、だしぬけにどなるような声で挨拶をはじめたが、それには順序も何もなかった。ただ、不思議に言葉だけは滔々《とうとう》とつづき、しかも「授業を一時間も休まなかった」とか、「私事をもって公事をおろそかにしなかった」とかいうような、校長のほめ言葉を何度も自分でくりかえしては、やたらに謙遜《けんそん》したり、感激
前へ
次へ
全243ページ中124ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング