るんかね。」
「母さんになる人?……もうすぐだろう。僕の入学試験がすんだら、すぐって言ってたから。」
「でも、次郎ちゃんは、また正木に行くんだろう。」
「そうさ。まだ卒業証書をもらわないんだもの。」
「すると、べつべつになるんかい、その人と。」
「ちょっとだよ。卒業したら、僕、またすぐここに来るんだから。」
「僕、次郎ちゃんがいないと、いやだなあ。」
「どうして?」
「次郎ちゃんがいないで、その人と話すの、何だかきまりがわるいや。」
「平気だい、そんなこと。だって、ここのお祖母さんのような意地悪なんかじゃないよ。」
 恭一は默りこんだ。
 次郎は、恭一に默りこまれたので、自分が何を言ったかにはじめて気がついて、はっとした。恭一にお祖母さんの悪口を言うのはいけなかったんだ。そう思うと、自分の言った言葉が、いやに耳にこびりついてはなれない。
 恭一は、しかし、まもなく言った。
「次郎ちゃんは、正木にいるのが一等好きなんだろう。」
 次郎は返事をしない。恭一も、強いて返事をうながすのでもなく、しばらくじっとしていたが、
「今度の母さんのうち、――大巻だったんかね、――そのうちだって、次郎ちゃ
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