んどなく、たいていは、正木の老人たちにつれられたり、あるいはすすめられたりして、しぶしぶ出かけるといったふうだった。
 それも、しかし、本田のお祖母さんの彼に対する仕打が、以前より一層ひどくなって来ている以上、無理もないことだった。本田のお祖母さんは、このごろでは、次郎をまるで本田の子供だとは思っていないかのようにあしらった。小学校を出たあと本田に帰って来られては迷惑だ、と言わぬばかりの口吻をもらしたことも、一度ならずあった。ある時など俊亮に向かって、
「この子もやはり中学校に出す気なのかえ。」とか、
「正木でお世話ついでに何とか考えてもらったら、どうだえ。」とか、次郎を目の前に置いて、平気でそんなことをいったことさえあった。
 俊亮は、むろんそれには取りあわなかったが、次郎としては、将来の希望を打ちくだかれたような気がして、その時は正木に帰ってからも、永いこと暗い気持になっていた。
 何よりも、次郎を不愉快にしたのは、お祖母さんが彼に向かって、正木の人たちのことを何かと悪く言うことだった。しかも、その悪口は、どうかすると、亡くなった母の上にまで飛んで行くのだった。
「親の気位が高いと
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