出したように、「ふむ」をくりかえした。次郎は、その「ふむ」を聞きながら、いまに先生が、亡くなった母や、今度の母のことを言い出しそうな気がして、妙に緊張した気分になっていた。先生は、しかし、とうとうそれには触《ふ》れなかった。
「先生、合宿ってどんなことをするんですか?」
かなり沈默がつづいたあと、今度は次郎がたずねた。
「合宿か――」
と、権田原先生はちょっと言葉をきって、
「合宿は何でもないさ、いっしょに食って寝るだけだよ。」
次郎は、先生がわざとそんなふうに言っているような気がして、何か物足りなかった。
「合宿なんかより、自分の家《うち》がいいさ。」
権田原先生は、しばらくして、またぽつりとそう言った。次郎は、しかし、それも先生の本心から出た言葉でないように思って淋しかった。
ほかの児童たちは、もうその頃には、めいめい一本ずつの竹ぎれや棒ぎれを握って、ちゃんばらの真似をしたり、並木の幹や枝をなぐりつけたりしながら、歩いていた。先生は、それに気がつくと、だしぬけに例のどら声をはりあげて怒鳴った。
「おうい、默って立っている木をなぐるのは卑怯だぞうっ。」
「卑怯だぞ」というの
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