その大きな眼をむいて拳固《げんこ》をふりかざしておきながら、すぐその手でやさしく児童たちの頭をなで、「これから気をつけるんだぞ。」と言って、それっきり、けろりとなるといったふうな飄然《ひょうぜん》としたなかに、いかにも温情のあふれている先生で、年歳《とし》はもう四十を越していたが、師範を出ていないせいか、学校での席次は、まだ四席かそこいらのところだった。毛むくじゃらな、まんまるい顔を、羊羹色《ようかんいろ》の制服の上にとぼけたようにのっけて、天井を見ながらのっそりと教壇に上って来るくせがあったが、その様子が、不思議に児童たちの気持を真面目にもし、またなごやかにもするのだった。
この先生が附添いときまってからは、合宿はみんなにとっていよいよ輝かしいものに思われ、彼らはよるとさわるとその話をして、町に行く日を首をながくして待っていた。
ただひとり楽しめなかったのは次郎だった。彼は、むろん、合宿に加わりたいのが精いっぱいで、町に自分の家があるのがうらめしい気にさえなり、
(先生の方で、みんなを合宿させることにきめてくれるといいが――)
と、心のうちで祈ったりしていた。しかし、権田原先生
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