「それで、あんたにも、そののろま[#「のろま」に傍点]なところを買っていただきたい、と思っていますのじゃ。のろま[#「のろま」に傍点]なだけに辛抱はいくらでもしますぞ。あんたが無理やり引きずり出すようなことさえなさらなきゃあ、めったなことで、自分からおんでるような、気のきいた女ではありませんのでな。そこは、あんたとちがって、豚のように無神経ですよ。」
「これはどうも……」
「いや、ほんとうじゃ。豚ではちとかわいそうなら、まあ山出しの女中と思っていただけば、まちがいありますまい。」
「何をおっしゃいます。」
「いや、山出しの女中と言えば、あいつにも一つだけ取柄がありますのじゃ。それは漬物がなかなか上手でしてな。あいつの漬けた糠味噌《ぬかみそ》じゃと、お母さんにもきっとお気に召しますわい。」
運平老はすこぶる真面目である。俊亮は、むず痒《か》ゆそうに頬をゆがめた。
「ところで――」
と、運平老は、急に思い出したように、うしろの茶棚にのせてあった一枚の葉書をとって、それを俊亮の方にさし出しながら、
「きのう、次郎君がわしにこんな葉書をくれましてな。字はあまり上手でもないようじゃが、書く
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