持に同情してくれているのが、妙に嬉しかった。
「それに――」
と、お延は、次郎の手をなでながら、
「もし次郎ちゃんが、嘘でもいいから、今日から思いきってお母さんと呼んであげたら、どんなにお喜びでしょう。あの方はね、そりゃお気の毒な方よ、ちょうど次郎ちゃんと俊ちゃんぐらいな男のお子さんがお二人あったんだけれど、お二人とも、お亡くなりになってしまったんだってさ。だから、誰かにお母さんて呼ばれてみたいのよ。」
次郎は、はっとしたように、伏せていた眼をあげて、お延を見た。
「だのに、次郎ちゃんが寄りつきもしないようだと、どんなにあの方、がっかりなさるでしょう。……それにね、次郎ちゃん、あの方はもう正木の人になっておしまいになったんだよ。お祖父さんと、お祖母さんとでね、亡くなったお母さんの代りをしていただく方なんだから、そうしてもらった方がいいっておっしゃってね。わからない? わかるでしょう。」
次郎はうなずいた。
「だから、もしかして、あの方が次郎ちゃんとこに行けなくなったら、そりゃ大変なことになるのよ。だいいち、あの方どこにどうしていていいか、わからなくなっておしまいになるわ。せっかく
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