次郎はそれでも默っている。
「まあ、おかしな次郎ちゃん。この叔母さんにかくすことなんかありゃしないじゃないの。」
 すると、次郎は急にお延の顔をまともに見ながら、
「お芳さんって、どこの人?」
 お延は、ちょっとあきれたような顔をした。が、すぐわざとのように笑顔をつくって、
「まあ、お芳さんなんて、駄目よ、そんなふうに言っちゃあ。」
「どうして?」
「どうしてって、お祖母さんは何ともおっしゃらなかったの。」
「言ったよ。これからうちの人になるんだって。」
 お延はちょっと考えてから、
「そう? いいわね。うちの人になっていただいて。」
「うちってどこ?」
「うちはうちさ。」
「ここのうち?」
「そうよ。」
「どうしてうちの人になるの。」
「さあ、どうしてだか、次郎ちゃんにわからない?」
 お延は探るように次郎の眼を見た。
「うちの何になるの?」
「あたしのお姉さん。……あたしより年はおわかいのだけれど、お姉さんになっていただくの。」
 お延の姉――亡くなった母――と、次郎の頭は敏捷《びんしょう》に仂いた。もう何もかもはっきりした。彼は、しかし亡くなった母の代りに、いま座敷にいる「お
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