きく見える。ふっくらした頬の形は、どこかに春子を思わせるものがあった。しかし吸いつけられるような感じには、ちっともなれなかった。
「おいただきなさいよ。」
お祖母さんがうながした。それでも次郎は手を出そうとしない。女の人は箸にはさんだ丸芳露を、ちょっともちあつかっている。
「まあ、ほんとにどうしたというんだね。いつもはお菓子に眼がないくせに。……くださるものは、すなおにいただくものですよ。」
次郎は、お祖母さんにそう言われると、だしぬけに手をつき出して、丸芳露を受取ったが、いかにも厄介な預り物でもしたように、すぐそれを膝の上においた。
「はじめて、お目にかかるものですから、きまりが悪いのですよ。」
と、お祖母さんは取りなすように言って、
「次郎、おたべよ、……お芳さんもひとついかが。次郎が一人ではきまりが悪そうだから、あたしたちもお相伴《しょうばん》いたしましょうよ。」
「ええ、いただきますわ。」
二人は次郎の様子に注意しながら、丸芳露をたべだした。次郎は、しかし、食べようとしない。
彼は「お芳さん」という女の名を何度も心の中でくりかえした。そして、さっきお祖母さんが、
「こ
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