次郎は、一人でいるのが結局気安いような気がして、蓆の上にごろりと寝ころんだ。そして、次第に白ちゃけて行く燠にじっと眼をこらした。
「ちっとでも次郎のためになることなら、仏も喜びましょうからな。」
そう言ったお祖父さんの言葉が思い出された。それはいいことのようにも思えたし、また悪いことのようにも思えた。自分のために、悪いことを考えるようなお祖父さんではない。――そうは信じていたが、ふだんのお祖父さんの言葉のように、彼の心にぴったりしないものがあった。
「かげになって、次郎をかばってくれる女が一人は居りませんとな。」
そうもお祖父さんは言った。が、次郎にはやはりそれもぴんと響かなかった。
(もし、さっき見た女の人がそうだとすると、あんな人に、乳母やのような親切な心があるわけがない。だいいち、あの女は自分がこれまで見たこともない人ではないか。)
彼は、それからそれへと、いろんなことを考えつづけた。しかし、考えれば考えるほど、いよいよわけがわからなくなって来た。
そのうちに、あたりがそろそろ暗くなり出し、おりおり炉の中でくずれる燠《おき》が、ぱっと明るく彼の顔をてらした。そして彼の
前へ
次へ
全305ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング