こえた。次郎はごくりと固唾《かたず》をのんだ。
「この話は、次郎本位に考えるだけでいい、というわけでもありませんし……」
「ご尤も。」
とお祖父さんが言った。俊亮は少し声を落して、
「何しろ、ご存じの通りの内輪の事情ですから、誰に来てもらったところで、すいぶんつらいことがあるだろうと思います。」
「それはいたし方ない。先方も初婚というわけではないし、それに、さっきから話しましたような事情じゃで、とくと話せば、大ていのことは我慢する気になるだろうと思いますがな。」
「しかし、それも程度がありますのでね。それに、万一来て下さる方が、次郎の方にだけ親しみが出来るというようになりますと、いよいよ面倒になりまして、次郎のためだと思ったことが、かえって悪い結果にならんとも限りませんし……」
「なるほど、そこいらはよほど気をつけんとなりますまい。じゃが、かげになって次郎をかばってくれる女が、一人は居りませんとな。」
しばらく沈默がつづいた。次郎はただ頭がもやもやしていた。父にどう返事をしてもらいたいのか、それさえ自分でもわからなかった。第二の母、そんなことは、まだこれまでに彼が考えてみようとした
前へ
次へ
全305ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング