とか、幸福とかいうものをすてて、一途に国のため、世のため、人のためにつくそうとする心になることなんだ。つまり、見事に死んで、見事に生きよう、というのだね。武士道ということは死ぬことと見つけたり、――葉隠《はがくれ》にはそんなことが書いてある。君らには、葉隠はまだ少しむずかしいかも知れんが、少しずつ読んでみるといいね。講堂にかかげてある額も、葉隠にある言葉だよ。四誓願といって、それが葉隠の大眼目なんだ。武士道、忠孝、大慈悲、この四つを神仏に念じて、尺取虫のようにじりじりと進んで行こうというのだ。しかし、四誓願といっても四つがべつべつではない。心はただ一つだ。忠も、孝も、武士道も慈悲も、つまり見事に死ぬことだよ。見事に死んで、見事に生きることだよ。君らは剣道でその稽古をしているわけなんだ。」
 鐘が鳴った。
 朝倉先生は立ち上ってズボンの塵を払いながら、
「じゃあ、そのつもりで、しっかり稽古したまえ。大慈悲を起し人のためになるべき事、――いいかね。」
 次郎は、お辞儀をすますと、いっさんに道場の方に走った。朝倉先生は、そのいきいきした姿が見えなくなるまで、彼を見おくっていたが、やがて大きく
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