澄んだ眼で、じっと次郎の顔を見つめたあと、いかにも静かな調子で答えた。
「それは見事に死ぬためさ。」
次郎には、全く思いがけない答えだった。彼は驚いたように、先生を見た。
「むずかしいかな。」
と、先生は、ちょっと首をかしげて、微笑した。そして、しばらく考えていたが、
「山岡鉄舟という人は、非常な剣道の達人《たつじん》で、しかも幕末の血なまぐさい頃に仂いた人だが、一生、人を斬《き》ったことのない人だそうだ。むろん戦場に出たら、そういうわけにも行かなかったろうさ。しかし、その機会もなかったらしい。だいいち、日本人同士で戦うのを非常に残念がっていた人で、徳川慶喜の旨をうけて、官軍の方に使いをしたこともあるんだ。そういう人だから、決してむやみに人を殺さなかった。つまり活人剣――人を活かす剣だね――それが山岡鉄舟の信念だったんだ。――」と先生はちょっと言葉を切って、
「この活人剣というのは、自分にけちな根性があっては握れるものじゃない。己に克《か》つ、――聞いたことがあるだろう、己に克つって。――その己に克つことが、活人剣を握る人の心構えなんだ。己に克つというのは、自分だけの利益とか、名誉
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