掻《かき》や棒ぎれをにぎって、さきを争うように、炉口《ろぐち》にうずたかくなっている蝋灰をかきおこしはじめた。蝋灰のなかからは、まるごとに焼けた薩摩芋がいくつもいくつもころがり出た。
 次郎は、もうすっかり腹が減《へ》っていたので、その香ばしい匂いをかぐと、すぐその一つに手を出した。火傷《やけど》しそうに熱いのを、両手で持ちかえ持ちかえしながら、二つに折ると、黄いろい肉から、湯気がむせるように彼の頬にかかった。彼はふうふう吹いては、それを食った。従兄弟たちもさかんに食った。食いながら、みんなでいろんなおしゃべりをしては、笑った。
 次郎は、急にのびのびしたあたたかい気持になり、きのうまでの不愉快な生活を夢のように思い浮かべた。そして今更のように、正木の家はいいなあ、と思った。
 しかし、一方では、どうしたわけか、しばらくぶりで逢《あ》った従兄弟たちが、何とはなしに物足りないように思われてならなかった。むろん、彼らが次郎に対して、いつもよりは冷淡だったというのではない。それどころか、芋を焼いていた彼らが、次郎が帰って来たのを知ると、彼をも仲間に入れようとして、すぐ飛んで出て来たのには、む
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