こでも二人はあまり口をきかなかった。しかし、墓地の出口まで出て来たときに、ふと俊亮が言った。
「お前が恭一に万年筆をもらったのを、お母さんもきっと喜んだろうね。」
次郎は默って自分のカバンを見た。その中には、恭一にもらった万年筆が、もう何よりも大事にしまいこまれていたのだった。
三 大きな笑《え》くぼ
二人が正木の家《うち》についたのは十一時を少し過ぎたころだった。正木では、俊亮が午前中に来ると予想していなかったらしく、門口をはいると、みんなが、「おや」という顔をした。
老夫婦は、しかし、二人の顔を見ると、次郎の方にはろくに言葉もかけないで、せき立てるように、俊亮だけを座敷に案内した。
次郎には、それが物足りないというよりは、何かしら気になった。で、カバンを二階の子供部屋の机の上におくと、自分もすぐ座敷の方に行ってみるつもりで、梯子段を降りかけた。しかし、梯子段の下には、もう従兄弟たちが待っていて、やんやとはしゃぎながら、彼を蝋小屋の方にひっぱって行った。
蝋《ろう》小屋の蒸炉《むしろ》には、火がごうごうと燃えていた。従兄弟たちは、そのまえに行くと、めいめいに火|
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