ったのは、彼の同級生が――竜一や源次ですらも――彼と親しくしているところを上級生に見られると、妙にそわそわして、彼のそばを離れようとすることだった。彼はすぐ彼らの気持を見ぬいた。そして心の中でひどく憤慨した。思いきって彼らを面罵してやろうかと思ったことさえ何度かあった。しかし彼はいつもそれを思いとまった。
(五年生に口実を与えてはならない。)
 それが、その頃、彼の行動を左右する第一の信条だったのである。
 こうして、彼は、彼の同級生の間に、一人として心の底から交わりうる新しい友人を見出さなかった。そればかりか、竜一や源次ですら、もう彼にとっては、心からの親友でも、従兄でもなくなったのである。むろん、小学校時代に培われた温い感情が、そう無造作に冷めてしまうわけはなかった。で、次郎の彼らに対する気特には、他の同級生に対するのとは、まだかなりちがったところがあり、また、彼が土曜から日曜にかけて彼らの家を訪ね、見たところ以前と少しも変らない親しさで遊んだりすることもしばしばだったが、そうしたことは、所詮《しょせん》、過去の酒甕《さかがめ》からしたたって来る雫《しずく》のようなもので、彼の注意
前へ 次へ
全305ページ中240ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング