ったような顔をして、すぐ机のまえに坐った。そして、懐から手帳と蟇口とを出して、それを抽斗《ひきだし》にしまいこんだが、つい今朝まで、何かしらまだ気がかりになっていたその蟇口も、もう全く問題ではなくなっていた。
 彼の人生は、中学校入学の第一日目において、すでに急激な拡がりを見せていたのである。

    一五 親爺

 雨天体操場事件は、翌日になると、もう全校生徒の噂の種になっていた。恭一の教室でも、始業前からその話でにぎやかだった。
「その新入生、ちびのくせに、いやに落ちついていたっていうじゃないか。」
「五年生の方が、かえって気味わるがっていたそうだよ。」
「まさか。」
「いや、ほんとうらしい。さんざんなぐられていながら、涙一滴こぼさないで、じろりとみんなを睨みかえして、悠々《ゆうゆう》と帽子の塵をはらって出て行った様子は、ちょっと凄かったって言っていたぜ。」
「それよりか、狐の奴がその新入生に頬ぺたをひっかかれたって、ほんとうかね。」
「それはたしかだ。」
「何でも最初になぐったのは狐だそうだが、なぐったと思った時には、もう頬ぺたをひっかかれていたそうだ。」
「その新入生、よっぽ
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