ようになってころがっている帽子が眼についた。それは、彼がついこないだ父に買ってもらったばかりの、そして、きのうはじめて、組主任の先生に渡された新しい徽章をつけたばかりの、彼の制帽だった。
彼は思わずかっ[#「かっ」に傍点]となった。同時に、鼻の奥がすっぱくなって、そこから、熱いものが眼の底にしみて来るような気がした。しかし、彼は唇をゆがめてじっとそれをおさえた。そして、しずかにその帽子を拾い、ていねいに形を直し、塵《ちり》をはらってそれをかぶると、そのままさっさと渡り廊下の方に向かって歩き出した。
「こらっ! どこへ行くんだ!」
五年生の一人が叫んだ。それは三つボタンらしかった。次郎は、しかし、ふり向きもしなかった。
「あいつ、いよいよ生意気だ!」
「このまま放っとくと、上級生の権威《けんい》にかかわるぞ!」
「つかまえろ!」
五年生全体がざわめき立っているのをうしろに感じながら、次郎はもう渡り廊下を二三間ほども歩いていた。
彼は、そこで、ちょっとうしろをふりかえってみた。すると雨天体操場の中から無数の視線がまだ自分を覗《のぞ》いており、その視線の一部を遮って、二人の五年生が入
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