みんな涙のある人間になってくれ。涙のある人間だけが、すべてを支配することが出来るんじゃ。」
と、演壇の端まで乗り出して来て言った時には、もうどう見ても、五年生にだけ話しているとしか思えなかった。
その時、五年生の中にはごく少数ではあったが、お互いに顔を見合って、変ににやにやしたり、傲然とのび上って、校長の顔をにらみ返すようなふうをしたりする者があった。次郎は、横からでよく見えなかったが、出来るだけ五年生の表情に注意していた。そして、何かしら、不安なものを胸の底に感じた。
式がすんだあと、教室で組主任からこまごまと注意があった。それでその日の予定は終りであった。ところが、組主任の先生は、自分の注意が終ったあと、気の毒そうな顔をして言った。
「五年生たちが、校風をよくするために、君らに雨天体操場に集まってもらって、何か話したいと言っている。これは毎年の例だ。間もなく誰かが迎えに来るだろうから、しばらくここで待っていてもらいたい。自分は今から職員会議があるから、その方に行く。」
そう言って先生はすぐに出て行った。残された新入生たちは、おたがいに顔を見合わせて默りこんだ。間もなく、五年
前へ
次へ
全305ページ中209ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング