事
一、主君の御用に立つべき事
一、親に孝行仕るべき事
一、大慈悲をおこし人の為になるべき事
次郎は、武士道という言葉の意味を、はっきりとは知っていなかった。しかし、第一条はよくわかるような気がした。第二条と第三条とは、これまで修身の時間で十分教わって来たことだし、べつに珍しいとも思わなかった。親孝行のことを、自分の境遇にあてはめて考えてみようという気にも、まるでならなかった。ただ、この二箇条をなぜはじめの方に書いてないのだろう、と、それがちょっと不思議に思えた。
第四条の「慈悲」という言葉が、妙に彼の心をとらえた。彼はその言葉の意味を「武士道」という言葉の意味以上に知っていたわけではなかったが、その字を見た瞬間、すぐ正木のお祖母さんのことを思い起したのだった。
「慈悲深い方だ。」――「仏様のような方だ。」
これが正木のお祖母さんの噂をする時に、村人たちがいつも使う言葉だったのである。
次郎は、何度も大慈悲の一条をよみかえした。そして、正木のお祖母さんが、自分や、家庭の者や、村人たちに対して、言ったりしていたことを、いろいろと回想してみた。そのうちに、彼は、嬉しいとも淋しいとも
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