と思うんだけど、仕方がないさ。」
 次郎はあらためて自分の蟇口を見た。そして、その蟇口をとおして、父と母と祖母との心を、また自分自身のこれからの生活の一部を、はっきり見ることが出来たような気がした。

    一四 ふみにじられた帽子

 次郎が、中学校入学式で講堂にはいった時、まず第一に眼についたのは、正面右側に掲げてある、すばらしく大きな額だった。それには「進徳修業」の四字が、まるで箒の先ででも書いたように、乱暴にならんでいた。次郎は、ただその大きさと乱暴さとに驚いただけで、ちっともいい字だとは思わなかった。
(どうして、こんな乱暴な字を額になんかしてあるんだろう。)
 彼は、そう思って、すぐ眼を左の方に転じた。
 左正面にも、同じ大きさの額がかかっていた。しかし、それには、平仮名まじりの文章が四箇条ほど箇条書きにしてあったので、さほど大きくは見えなかった。字もていねいだった。書体は少しくずしてあったが、次郎にも読めないほどではなかった。彼は、他の新入生たちが何かこそこそ囁きあっているひまに、念入りにそれを読んでみた。文句は次のとおりであった。
一、武士道に於ておくれ取り申すまじき
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