ことのない、なごやかな空気を、そんなことにも感じるらしかった。
 次郎は盛んに鰻に箸をつけ、恭一は鰻よりも蒲鉾の方を多く食った。
 食事がすんで小半|時《とき》もたつと、運平老は次郎に剣道の稽古をつけてやった。恭一にもすすめたが、彼はどうしても面をかぶろうとしなかったので、徹太郎は彼を二階の書斎につれて行って、勝手に本を見さした。
 本棚には、少年読物から哲学書まで、かなり広い範囲《はんい》の本がならべてあった。絵の鑑賞《かんしょう》に関する本も二三冊あった。恭一は午前の話を思い出して、先ずそのなかの一冊を引き出してみた。
「恭一君は、やはり絵に趣味があるんだね。」
 徹太郎にそう言われて、彼は頭をかいたが、それでも、挿画になっている名画の説明に、いつまでも眼をさらしていた。
 次郎と運平老とが剣道をすまして帰って来ると、またみんなが茶の間に集まって、パイナップルの罐詰《かんづめ》[#ルビの「かんづめ」は底本では「かんずめ」]をあけた。運平老と徹太郎とは、何かにつけ恭一と次郎とをそっちのけにして、例の調子で論戦を始めるのだったが、話題はいつも世間ばなれのした、罪のないことばかりだった。
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