りなんだよ。僕を大事にするんだって、俊ちゃんを可愛がるんだって、みんなお祖母さんがいろいろ言うからさ。」
 次郎は、そう聞くと、かえって救われたような気がした。そして、さっきのお芳の眼の表情を、もう一度思い浮かべた。
「じゃあ、母さんは、俊ちゃんをほんとうに可愛がっているんじゃないの。」
 彼は、彼がふれるのを最も恐れていた、しかし、ふれないではいられなかったものに、巧みにふれる機会をとらえた。
「そりゃあ、ほんとうに可愛がっているかも知れんさ。だけど俊ちゃんを可愛がるからって、次郎ちゃんが久しぶりで来たのに知らん顔しているなんて、ひどいと思うよ。次郎ちゃんが可愛いなら、お祖母さんの前だって何だって、あたりまえに可愛がりゃあいいじゃないか。僕、ごまかすのが大きらいさ。」
 次郎は恭一の言葉がうれしいというよりは、もどかしい気がした。彼は、お芳がほんとうに俊三を愛して自分を疎《うと》んじているのか、それとも、単にお祖母さんの手前そんなふうにみせかけているのか、それをはっきり言ってもらいたかったのである。
 彼は、自分の俊三に対する嫉妬《しっと》を恭一に覚《さと》られないで、それをどうたず
前へ 次へ
全305ページ中138ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング