したら、かりにそれがお祖母さんの機嫌を損じて、次郎にかえって不愉快な思いをさせる結果になったとしても、次郎は一ヵ月前の「母さん」をはっきり本田家に見出すことによって、十分そのうめ合わせをすることが出来たであろう。
 だが、お芳には、そんな気ぶりは少しも見えなかった。気がつかなかったのか、勇気がなかったのか、あるいはそれがあたりまえだと思っていたのか、彼女は、まるで気のぬけたおかめ[#「おかめ」に傍点]のような顔をして坐っているだけだった。
 それに、次郎の心を一層刺戟したのは、俊三がおりおりお芳にしなだれかかるようなふうをすることであった。彼は、俊三のそうした様子を見ているうちに、ふと、彼の六、七歳ごろの記憶をよび起した。それは、乳母のお浜と自分との間に恭一が割りこんで、お浜の愛を奪っていると想像した結果、恭一のカバンをそっと便所になげこんだおりのことであった。彼は、そのころ恭一に対して感じたものを、俊三に対して感じはじめたのである。
 それは、その時ほど狂暴《きょうぼう》なものではなかった。しかし、それだけに、胸のしんに何か食い入るような気持だった。彼はもうお芳と俊三とを見ている勇気
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