うものは、所詮大したものではない。予定は砂丘のように変りやすいものだし、人間の一生は、非常にしばしば、予定外の生活によって、その方向を与えられるものなのである。
だいいち「次郎のために」ということで迎えられたお芳が、その母としての生活を、次郎とべつの屋根の下で始めなければならなくなったということは、次郎にとって、何という皮肉な運命だったろう。
それは、いうまでもなく、お芳自身にとっても、――もし彼女が、「次郎のために」ということを真面目に考えて嫁いで来たとすれば、――まことに変なめぐり合わせだと感じられたにちがいない。だが、次郎にとってそれが重大な運命であったほどに、彼女にとっても重大な運命であったかは疑問である。というのは、そのことによって、自然二人の愛情が、どちらからか薄らいでゆく場合があるとして、それが次郎の方からであった場合にお芳の受ける打撃は、その反対の場合に次郎のうける打撃にくらべて、はるかに軽くてすんだであろうからだ。彼女には、次郎のほかに恭一や俊三がいた。彼女が三人のうちで最初に親しんだのが次郎であったとしても、もともと「次郎のために」ということが、周囲の人々の作為
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