かかっていたことで、法事のたびごとに、ひそひそと囁《ささや》かれていたのだが、四十九日が過ぎ、百ヵ日が過ぎ、その年も暮近くになって、やっと正木の老人から俊亮に話し出したのだった。
 それでも、結局、解決がつかないままに年があけてしまったのである。

    二 万年筆

「次郎、父さんは、今日正木へ行く用が出来たんだが、いっしょに行かないか。」
 朝飯をすまして、火鉢のはたで、手紙の封をきっていた俊亮が、だしぬけに言った。
 次郎は正月を迎えるために本田に帰って来ていたが、むろん、一日だってお祖母さんに不愉快な思いをさせられない日はなかった。恭一や俊三といっしょに、父と一度映画館につれて行ってもらったほかに、正月らしい気分は何一つ味わえず、とりわけ、食卓での差別待遇が、母にわかれてからの彼のしみじみとした気持を、めちゃくちゃにしそうだった。で、休みはまだあと二日ほど残っていたが、父にそう言われると、彼は飛び立つように嬉しかった。
「すぐ行くの? 僕、じゃあ、カバンを取って来るよ。」
 彼は、そう言って、二階へかけあがった。
「だしぬけに、どうしたんだね。」
 と、まだちゃぶ台のそばで茶
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