そりゃあ、次郎をつれて行くのに相談はいらんよ。行くなら、やはりあれをつれる方がいいね。しかし……」
 と、俊亮は急にまじめな顔になって考えていたが、
「お芳も、大巻にはしばらく行かないようだが、あれもいっしょだと、なおいいね。」
「そうお願い出来れば何よりですけれど、急に、ご無理じゃございませんかしら。」
「そんなことはないよ。お前さえ、その方がよければ。」
「そりゃあ、もう、そうしていただけば……」
 二人の気持は、いつの間にか、よく通じているらしかった。
「おい、お芳。」
 と、俊亮は台所の方を見て、
「お浜が、きょう、大巻にごあいさつに行きたいって言っているが、どうだい、久しぶりで、お前も次郎といっしょに、案内かたがた行って来ないか。」
 お芳はすぐ茶の間に顔を出した。そして、
「あたしは行ってもよろしゅうございますが、ちょっとお祖母さんにおたずねしてみませんと。」
 彼女はそう言って仏間の方に行った。その時、二階から、お鶴も交じって子供たちが四人でおりて来た。俊亮は微笑しながら、
「次郎、お前、きょう大巻に行くのか。」
 次郎は、きょとんとした顔をしていたが、
「どうして?」
 と、俊亮とお浜の顔を見くらべた。
「なるほど、約束があっていたわけじゃなかったのか。」
 と、俊亮はてれたように笑いながら、
「乳母やが今日は母さんと大巻に行くんだ。お前も行って来たらどうだい。」
「うん。」
 次郎はすぐうなずいた。が、自分のそばに立っている俊三に気がつくと、
「僕だけ? 俊ちゃんは?」
「俊三か。そうだね、行きたけりゃあ、行ってもいいが……」
 俊亮の答は変にしぶっていた。次郎は、しかし、それに、頓着せず、
「行こうや、俊ちゃん。母さんも行くんだから。」
「うん、行くよ。」
 俊三はもう乗気だった。すると、次郎は、今度は恭一に向かって、
「恭ちゃんも行くといいなあ。どうする恭ちゃん。」
「行ってもいいよ。」
 恭一はあっさり答えた。
「なあんだ、それじゃあ、みんなが行くことになるんじゃないか。」
 と、俊亮は、ちょっと苦笑して、
「お鶴もいっしょだと、六人だぜ。大巻でびっくりしやしないかな。」
「大ぜいの方が、大巻のお祖父さんだって、喜ぶんです。」
 次郎は、俊亮が何を考えているのか、まるで気がついていないらしく、そう言って、一人で喜んでいた。そこへ、お祖母さんとお芳が仏間から出て来たが、お祖母さんは、すぐ俊亮に言った。
「お芳さんまでが、わざわざついて行くにも及ぶまいよ。あたしは、次郎だけの方が、かえっていいと思うのだがね。」
 お祖母さんは、べつに皮肉を言っているようなふうでもなかった。しかし、俊亮は、変に顔をゆがめながら、
「ええ――」
 と生《なま》返事をして、しばらく眼をつぶっていたが、
「じゃあ、母さんはよすか。ねえ、次郎。」
 次郎はちょっと失望したらしかった。が、すぐ、
「ええ。」
 とすなおに答えて、
「すると、俊ちゃんは?」
「俊三は、行きたければ行ってもいいさ。」
「どうする? 俊ちゃん、母さんが行かなくても、行く?」
「ううん――」
 俊三はあいまいに答えて、お芳を見た。すると、お祖母さんが、けげんそうに、
「俊三も行くことになっていたのかい。」
「ええ、実は、私は次郎だけのつもりだったんですが、次郎が俊三をさそったものですから。」
「次郎が? 俊三を? そうかね。」
 お祖母さんは、まじまじと次郎を見て、何か考えるらしかった。
「だって、母さんも行くのに、俊ちゃん残るの、つまんないや。ねえ、俊ちゃん。」
 俊三は赧《あか》い顔をした。俊亮も、次郎がそう言うと、じっとその顔を見つめて、考えていたが、
「お祖母さん、どうでしょう、やっぱりお芳もやることにしては。」
「そうだねえ――」
 と、お祖母さんは、お芳の方を見て、
「じゃあ、俊亮もああ言っているし、やっぱり行ってやることにしますかね。」
「はい。ではそういたしましょう。」
 お芳はちょっとお浜を見て、台所の方に立って行った。お浜はその時、次郎の顔を見ていたが、その眼は、いくぶん涙ぐんでいるようだった。
「すると結局、六人になってしまったな。大巻では、だしぬけに大変だろう。ご馳走はこちらから用意して行くんだな。」
「六人っていうと?」
 と、お祖母さんがまたけげんそうな顔をした。
「恭一とお鶴、それで六人でしょう。」
「おや、おや、恭一も行くのかい。」
「次郎がみんなをひっぱり出すもんですからね。」
「そうかい。……次郎がね。……そうかい。」
 と、お祖母さんは、やたらにうなずいた。
「どうだ、次郎、ついでにお祖母さんもひっぱり出しちゃあ。」
「ええ――」
 次郎は顔を少しあからめて、お祖母さんの顔を見ていたが、
「そうだなあ、お祖母さんも行くとい
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