れてお考えになるの? 坊ちゃんらしくもない。」
「ひねくれているんじゃないよ。」
「だって――」
と、お浜は、もう泣き声だった。
「乳母や、……乳母や……」
と、次郎は、お浜のからだをゆすぶりながら、
「僕は、ちっともひねくれてなんか、言ってるんじゃないよ、ほんとうにそうだよ。」
「じゃあ、ど……どうして、あんな意地悪なことおっしゃるの?」
「意地悪じゃないよ。だって、乳母やの考えてることと、僕の考えてることとが、まるでちがってるんだから、しようがないよ。」
「じゃあ、どうちがっていますの?」
「乳母やは、僕がみんなに負ける、だから偉くないって、そう思ってるんだろう。」
「ほれ、また。」
「わかんないなあ、乳母やは。」
「わからないのは坊ちゃんですよ。」
次郎は笑い出した。お浜も、つい、つりこまれて淋しく笑った。次郎は、しかし、すぐまじめになって、
「乳母や、負けるって、どんなこと?」
「負けるって、負けることですよ。」
次郎はまた笑った。すると、今度はお浜がたずねた。
「じゃあ、坊ちゃんは、どうお考えなの?」
「僕はね、乳母やが勝ちだって考えていることが負けるってことで、負けるって考えてることが勝ちだってことだと思うよ。」
「まあ! 変ですわね。それ、どういうことですの?」
「乳母やは、人の喜ぶようなことをするの、いいことだと思う?」
「そりゃあ、いいことですともさ。」
「僕がお菓子をもってる。それを俊ちゃんがほしがるから、やる。すると俊ちゃんが喜ぶから、いいことだろう。」
「ええ、……それは……まあいいことでしょうね。」
「お祖母さんや、母さんに、僕がこれまでわるかったってあやまる。すると二人とも喜ぶ。それもいいことだろう。」
「ええ、……でも……」
「悪いの?」
「時と場合によりますわ。どんなに無理を言われても、坊ちゃんがあやまってばかりいらしったんでは……」
「だって、それで、お祖母さんも母さんもやさしい人になったら、いいんだろう。」
「それならいいですとも。」
「僕、きっと二人をやさしい人にしてみせるよ。」
次郎は、きっぱり言いきった。お浜は默って考えこんだ。
「僕、ね、乳母や――」
と、次郎は、また、しばらくして、
「僕、これまで人に可愛がられたいとばかり考えたのが悪かったんだよ。僕、これから、人に可愛がられるよりも、人を可愛がる人間になりた
前へ
次へ
全153ページ中144ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング