いと思うよ。いつか、僕、乳母やにやった手紙に、人に可愛がられなくても、独りで立って行けるような強い人間になりたい、って書いたと思うんだけど、あれだけではいけないんだよ。ほんとうに強い人間になるには、人を可愛がらなくっちゃ駄目なんだよ。僕たちの校長先生は、いつもそう言ってるよ。」
「坊ちゃんは、まあ、何てお偉くおなりでしょう。」
 お浜は、またきつく次郎を抱きしめた。次郎は抱きしめられながら、
「乳母やよりも、だから、僕、偉いんだろう。」
「ええ、ええ、……」
「父さんが僕を偉いって言ったの、うそじゃないんだろう。恭ちゃんが僕に負けたって言ったのも。」
「ええ、ええ、……乳母やはほんとうに駄目でしたわねえ、さっきはあんなこと言って。……あやまりますわ。ほんとうにあやまりますわ。そして、これから、坊ちゃんにお手紙でいろんなことを教えていただきますわ。……でも――」
 と、次郎を抱いていた腕を、少しゆるめて、ひとり言《ごと》のように、
「こんなおやさしい坊ちゃんを、お祖母さんもお母さんも、どうしてこれまで、いじめてばかりいらっしたんでしょうねえ。」
「僕、わるかったからさ。正木のお祖父さんが、僕のちっちゃい時、人間に好き嫌いがあっては偉くなれない、って言ったことがあるんだけど、僕、それが今までわかってなかったんだよ。」
「でも、坊ちゃんだけがお悪いんじゃありませんわ。坊ちゃんは何ていったって、子供ですもの。やっぱりお祖母さんやお母さんが……」
「乳母やは、駄目だなあ。まだあんなこと言ってる。乳母やは、僕がお祖母さんや母さんを嫌いになるのが好きなんかい。」
「そうじゃありませんけれど……」
「なら、よせよ。僕がお祖母さんや母さんが嫌いになったら、お祖母さんだって、僕を嫌いになるだろう?」
「…………」
 お浜は深い吐息《といき》をした。
「おっかちゃん!」
 と、その時、お鶴がだしぬけに声をかけた。
「駄目ね、おっかちゃんは。……あたしだって、次郎ちゃんの言ってること、もうわかってるわよ。」
「乳母や、まだわかんないの――」
 と、次郎はお浜の頸に手をかけて、
「お鶴だって、もう乳母やより偉いんだぜ。」
 お浜は、もう一度軽い吐息をした。そして、
「ほんとうにね。」
 と、しみじみと言ったが、
「だけど、それでいいんでしょう? 許して下さるでしょう。だって、誰よりもお偉い坊
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