、次郎の苦心も、実際並たいていではなかったのである。彼はちょっと門口を出るのにも、必ず制服制帽をつけていた。街角では、一応四方を見渡して、五年生の姿が見えると、相手がどこを見ていようと、それに対してきちんと敬礼をした。むろん、校則は、どんな些細なことでもよく守った。その点では、人一倍細心な恭一ですら、彼の几帳面《きちょうめん》さをおりおり冷やかしたくらいであった。その代り、彼は、今後五年生に無法な暴行を加えられたら、退学処分の危険を冒しても、思いきって反抗を試みようと、固く心に誓っていた。彼が彼の小刀《ナイフ》を筆入に入れないで、いつも衣嚢《かくし》に入れていたのも、実はそのためだったのである。
彼は、一年生の全部とはいかなくとも、少くとも彼の組の生徒だけでも、彼と同じ気持になってもらうことを、心から望んでいた。彼はある日、五六名のものに真剣にその気持を話してみた。しかし、誰もが反対もしなければ賛成もしなかった。落第して同じ一年にとどまっていた一生徒などは、嘲るように「ふふん」と答えたきりだった。で、彼はそれっきり、誰にもそのことを言わなくなってしまった。
何よりも彼がなさけなく思ったのは、彼の同級生が――竜一や源次ですらも――彼と親しくしているところを上級生に見られると、妙にそわそわして、彼のそばを離れようとすることだった。彼はすぐ彼らの気持を見ぬいた。そして心の中でひどく憤慨した。思いきって彼らを面罵してやろうかと思ったことさえ何度かあった。しかし彼はいつもそれを思いとまった。
(五年生に口実を与えてはならない。)
それが、その頃、彼の行動を左右する第一の信条だったのである。
こうして、彼は、彼の同級生の間に、一人として心の底から交わりうる新しい友人を見出さなかった。そればかりか、竜一や源次ですら、もう彼にとっては、心からの親友でも、従兄でもなくなったのである。むろん、小学校時代に培われた温い感情が、そう無造作に冷めてしまうわけはなかった。で、次郎の彼らに対する気特には、他の同級生に対するのとは、まだかなりちがったところがあり、また、彼が土曜から日曜にかけて彼らの家を訪ね、見たところ以前と少しも変らない親しさで遊んだりすることもしばしばだったが、そうしたことは、所詮《しょせん》、過去の酒甕《さかがめ》からしたたって来る雫《しずく》のようなもので、彼の注意
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