が一旦明日のことに向けられると、二人は、もう、彼にとって、他の同級生と少しも択《えら》ぶところのない存在だったのである。
彼は、しかし、彼のそうした孤独をたいして淋しいとは感じていなかった。また、憤りや侮蔑の念も、たびかさなるにつれて、次弟にうすらいで行き、あとでは、かえって、同級生に対して憐憫に似た感じをさえ抱くようになった。こうした感情の変化は、彼にとって、元来さほど不自然なことではなかった。それは、つまり、彼がかつて算盤《そろばん》事件で、弟の俊三に対して示した感情の変化と、同じものだったのである。
彼にとっての最も大きな失望は、彼の教室に出て来る先生の中に、権田原先生のような人を、ただの一人も、見出せなかったことであった。彼の眼に映じた中学校の先生というのは、小学校の先生にくらべて、何か専門らしいことをほんの少しばかりよけいに知っているだけで、およそ人間らしいところを少しも持合わせない人達ばかりだった。貧しい知識を教室で精一ぱいにしぼり出すこと、点数や処罰で生徒をおどかすこと、この二つの外には、用はないといった顔をしている人間、それを次郎は中学校の先生において発見したのである。
もっとも、生徒間の噂によると、校内に二人や三人は、尊敬に値する先生がいないでもないらしかった。また、入学式の時に、彼が校長からうけた印象も、まだすっかり消えていたわけではなかった。しかし、そうした先生たちは、次郎たちとはまるでべつの世界に住んでいるようなもので、めったにその顔をのぞくことさえ出来ないのだった。次郎は、そのために、中学校というところは、小学校にくらべてずっと奥行があるような気もしたが、またいやに不便なところのようにも思った。
とにかく、このことは、彼が中学校の先生にかけていた期待が大きかっただけに、彼をこのうえもなく淋しがらせた。そして、ある先生の授業のおりなどは、その時間じゅう、小学校の教室で権田原先生に教わっていた頃のことを思いうかべて、筆記帳にその似顔をいくつも書き並べていたことさえあった。しかし、一ヵ月、二ヵ月とたつうちに、中学校というところは、どうせそうしたものだ、と諦めるようになり、その淋しさも、いつとはなしにうすらいで行ったのだった。
諦めるといえば、彼は家庭でも、お芳に愛してもらうことを、もうすっかり諦めていた。同時に、お祖母さんに対しても、こ
前へ
次へ
全153ページ中121ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング