はまたすぐ二階に行ったが、次郎は机に頬杖をついて、何かじっと考えこんだ。その様子を見ていた恭一は、しばらくして言った。
「次郎ちゃん、大沢君って、偉い人だと思わない?」
「思うよ。だけど年とっているなあ。」
「中学校にはいる前に、三年も工場で仂いていたんだよ。」
「ふうむ、そうか。」
「だから、よけい偉いんだよ。」
次郎の頭には、一年おくれて中学校にはいった自分のことが、自然に浮かんで来た。が、彼の考えは、すぐまたもとにもどっていった。
(自分は、大沢に、心にもない偉がりを言ったつもりは少しもなかった。しかし、自分の言ったことに、ほんとうに自信があったかというと、そうでもなかったようだ。)
彼は何だかそんな気がして、不安だった。しかし、一方では、大沢に励ましてもらったことがうれしくてならなかった。そして、
(これからやりさえすればいいんだ。それで偉がりを言ったことには決してならないんだ。)
と、自分で自分を励まし、どうなり気持を落ちつけることが出来た。
二人は、それからも、しばらくは大沢の噂をした。次郎には、「親爺」という綽名が、いかにも大沢にぴったりしているように思えた。そして、そんな友達をもっている恭一を一層尊敬したくなった。同時に、彼の昨日からの気持が次第に明るくなり、これからの闘いが非常に愉快な、力強いもののように思えて来たのである。
一六 葉書
花が散り、梅雨《つゆ》が過ぎ、そろそろ蝉が鳴き出す季節になったが、その間、次郎の身辺には、心配されたほどの事件も起らなかった。
彼は毎日むっつりして学校に通った。
学課には彼はかなり熱心だった。また、教科書以外の本も毎日いくらかずつ読んだ。たいていは少年向きの雑誌や伝記類だったが、恭一の本箱から、美しく装幀された詩集や歌集などを、ちょいちょい引きだして読むこともあった。むろんそのいずれもが、彼にはまだ非常にむずかしかった。しかし、恭一におりおり解釈《かいしゃく》してもらったりしているうちに、詩や歌のこころというものが、いつとはなしに彼の感情にしみ入って来た。そして、時には、寝床にはいってから、自分で歌を考え、そっと起きあがって、それを手帳に書きつけたりすることもあった。
恭一は、もうその頃には、詩や歌をかなり多く作っており、年二回発行される校友会誌には、きまって何かを発表していた。次郎に
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