を相手にしたって、つまらんじゃないか。」
「すると、あいつらにぺこぺこする方がいいんですか。」
 次郎は、もう、食ってかかるような勢いだった。
「だから、ぺこぺこしないでもすむようにしてやろうかって、言ってるんだ。」
 次郎はそっぽを向いて、返事をしなかった。大沢は、恭一と顔見合わせて、微笑しながら、
「負けたよ。今日は次郎君にすっかり軽蔑されちゃった。わっはっはっは。……今日は、ここいらで失敬しよう。」
 大沢が立ちかけると、次郎がだしぬけに恭一に言った。
「僕たち、自分のことっきり考えないのは、いけないことなんだろう。」
「あたりまえじゃないか。」
 恭一は次郎と大沢の顔を見くらべながら、答えた。大沢は立ったまま、それをきいていたが、にっこり笑って、また腰をおちつけた。
「僕だって、なぐられるの、いやだよ。だから、自分のことっきり考えないでいいんなら、五年生のまえで、もっとおとなしくしていたんだよ。」
「じゃあ、どうしておとなしくしていなかったんだい。」
 大沢がはたから口を出した。
「だって、五年生は無茶ばかり言うんです。あんなこと言われて、僕、へこんでいたくないんです。」
「癪にさわったんか。それじゃあ、やっぱり自分のためじゃないか。」
 次郎はちょっとまごついた。しかし、すぐ、一層|力《りき》んだ調子で言った。
「ちがいます。新入生みんなのためです。」
「うむ、新入生のために戦うつもりだったんだね。」
 次郎は、そう言われて、まだ何か言い足りない様な気がした。そしてちょっと考えてから、
「新入生のためばかりではありません。五年生は、ちっとも校長先生の教えを守ってないです。あんな五年生は、僕、学校のためにならないと思うんです。」
「ようし、わかった。」
 と、大沢は、次郎の肩に手をかけて、
「しっかりやってくれ。君は僕たちの仲間だ。しかし、ほんとうの仲間は少いぜ。だから、みんなが一本立ちのつもりでやるより、ないんだ。いいかい。」
 次郎は、あっけにとられたような顔をして、大沢を見つめた。
 大沢は、しかし、そう言ってしまうと、
「じゃあ、失敬。」
 と、二人にあいさつして、さっさと部屋を出て行った。恭一はすぐあとについて、階段をおりた。そして次郎が自分にかえって、急いで下におりた時には、大沢は、もう、門口を出ているところだった。
 大沢を見おくってから、二人
前へ 次へ
全153ページ中117ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング