ゃないか。」
「そうかなあ。」
「次郎ちゃんは、そう思わなかった?」
「…………」
 次郎は眼を伏せた。そして、亀の子煎餅を指先で砕《くだ》いては、鉢におとした。涙がこみあげて来るような気持だったが、彼はやっとそれをこらえた。
「僕、あんな人、きらいさ。」
 恭一は吐《は》き出すように言って、急に煎餅をぼりぼり噛み出した。
 次郎は、しかし、すぐ恭一に合槌をうつ気にはなれなかった。彼には、何かしら未練があった。さっき立ちがけに見たお芳の眼の表情も思い出されていた。
「じゃあ、恭ちゃんも、可愛がって貰えないの?」
 次郎は妙に用心深い眼をしてたずねたが、それには、かなり複雑《ふくざつ》な気持がこめられていた。恭一が可愛がられていないことは、彼としては安心なことのようにも思えたし、また、それだけお芳の愛が俊三に集中されていることのようにも思えたのである。
「僕?」
 と恭一は、いかにも冷たい微笑を浮かべて、
「僕は誰よりも大事にしてもらうんだよ。僕、それがいやなんさ。」
 次郎には、その意味がわからなかった。しかし、恭一はすぐつづけて言った。
「母さんはね、次郎ちゃん、お祖母さんの言うとおりなんだよ。僕を大事にするんだって、俊ちゃんを可愛がるんだって、みんなお祖母さんがいろいろ言うからさ。」
 次郎は、そう聞くと、かえって救われたような気がした。そして、さっきのお芳の眼の表情を、もう一度思い浮かべた。
「じゃあ、母さんは、俊ちゃんをほんとうに可愛がっているんじゃないの。」
 彼は、彼がふれるのを最も恐れていた、しかし、ふれないではいられなかったものに、巧みにふれる機会をとらえた。
「そりゃあ、ほんとうに可愛がっているかも知れんさ。だけど俊ちゃんを可愛がるからって、次郎ちゃんが久しぶりで来たのに知らん顔しているなんて、ひどいと思うよ。次郎ちゃんが可愛いなら、お祖母さんの前だって何だって、あたりまえに可愛がりゃあいいじゃないか。僕、ごまかすのが大きらいさ。」
 次郎は恭一の言葉がうれしいというよりは、もどかしい気がした。彼は、お芳がほんとうに俊三を愛して自分を疎《うと》んじているのか、それとも、単にお祖母さんの手前そんなふうにみせかけているのか、それをはっきり言ってもらいたかったのである。
 彼は、自分の俊三に対する嫉妬《しっと》を恭一に覚《さと》られないで、それをどうたず
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