ねたらいいかに苦心した。
「俊ちゃんは、あれからすぐ母さんが好きになったんかい。」
「好きになったんかどうか知らないけど、すぐ、わがまま言い出したよ。おおかた、父さんが、わがまま言ってもいいって言ったからだろう?」
「わがまま言っても、母さん怒らない?」
「ちっとも怒らないよ。わがまま言うと、よけい可愛ゆくなるんだってさ。」
次郎の眼は異様に光った。彼は、自分がお芳に対して出来るだけ従順《じゅうじゅん》であろうとつとめていた一ヵ月まえまでの生活を思い起して、何かくやしいような気がした。彼はさぐるような眼をして、
「じゃあ、恭ちゃんもわがまま言えばいいのに。」
「馬鹿言ってらあ。僕、そんなこと、大嫌いだい。」
恭一は、いかにも不快そうに答えた。次郎には、それは意外だった。自分が愛せられることだけに夢中になっていた彼には、恭一の潔癖《けっぺき》な気分がよくのみこめなかったのである。
「ねえ、次郎ちゃん――」
と、恭一はしばらくして、
「僕、やっぱり、母さんなんか来ない方がよかったと思うよ。」
「どうして?」
「みんなが正直でなくなるからさ。母さんが来てから、みんな自分で考えてないことを、言ったり、したりするようになったんだよ。」
「母さんは、そんなにいけない人かなあ。」
「母さんがいけないんじゃないかも知れんさ。だけど、母さんが来るまでは、みんなもっと正直だったんじゃないか。このごろ父さんだって、嘘をつくことが多いぜ。お祖母さんなんか、しょっちゅう嘘ばかりだよ。」
恭一は食ってかかるような調子だった。
「恭ちゃんも嘘をつく?」
「僕は嘘なんかつくもんか。僕、何でも思ったとおりに言ってやるんだ。だから、みんな困るんさ。困ったって、平気だよ。」
次郎には家の中の様子が何もかも想像がつくような気がした。しかし、今の場合、彼にとって大事なのは、そんなことよりも、俊三とお芳との間が実際はどうだかを、はっきり知ることであった。
「じゃあ、俊ちゃんは?」
「俊ちゃん?」
と、恭一はちょっと考えてから、
「俊ちゃんは僕にはよくわかんないや。母さんにわがまま言うのは、わざとじゃないだろうと思うけれど。」
「じゃあ、母さんが俊ちゃんを可愛がるのも、嘘じゃないんだろう。」
恭一はまた考えた。そして、
「それも、僕には、はっきりわかんないさ。」
次郎は物足りなさそうな顔をして、
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