八 水泳
翌日、俊亮は、早めに昼食をすますと、恭一と次郎をつれて大川に行った。ちょうど干潮時で、暗褐色の砂洲が晴れ渡った青空の下にひろびろと現れていた。
三人は、喧《やかま》しく行々子《よしきり》の鳴いている蘆間《あしま》をくぐって、砂洲に出た。そして、しばらく蜆を拾ったり、穴を掘ったりして遊んだ。
次郎は、のびのびした気分になって、砂の上に大の字なりに臥《ね》た。
温かい砂の底からしみ出て来る水の感触が、何ともいえない好い気持である。きらきらと光って眼の上を飛んでいく蜻蛉《とんぼ》までが、今日は珍しい世界のもののように思える。
彼はうっとりとなって、一心に青空を見つめた。するとそこに、ぼうっと黒ずんだ小さな影のようなものが現れた。お玉杓子の恰好をしている。それがすうっと空を動いては、どこかで消える。眼を据えるとまた現れる。彼は幾度となくその影を逐った。逐っているうちに、いつの間にか夢のようにお鶴の顔が浮き出して来た。
彼は眼をつぶった。すると、お浜、お兼、勘作と、つぎからつぎへ、校番室の暗い部屋で親しんだ人達の顔が思い出されて来た。彼は、甘いような悲しいような気分にす
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