けに彼は次郎を呼んで言った。
「お母さんに見えるところで、兄弟喧嘩をするんじゃないぞ。」
次郎は、自分はどうせ喧嘩をするものだときめてかかっているような父の口吻《こうふん》が、ちょっと不平だった。そして、
(母さんに見えるところでなくったって、喧嘩なんかするもんか。父さんは、このごろ自分がどんなだかちっとも知らないんだ。)
と思った。
火傷のことは、俊亮はもう何とも言わなかった。次郎は安心したような、物足りないような気持で、父に別れた。
火傷をしたあと、母の薬を貰いに行く役目は、従兄弟たちが代ってやってくれた。春子にあえる楽しみもないし、かりにあえても、彼女に見苦しい顔を見られたくなかったのだから、次郎としては大助かりだった。それに、恭一や俊三がやって来てからは、うまい口実が出来たような気がして、めったに病室にも落ちつかなかった。彼は誠吉と一緒に二人を近くの溜池につれ出してよく鮒を釣った。
四五日して、珍しく本田のお祖母さんがやって来た。今度は火傷のことが大ぎょうに問題にされた。彼女は、お民の病気よりその方の話により多くの興味を覚えるらしかった。彼女は幾度も幾度も、
「親不孝
前へ
次へ
全332ページ中305ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング