面をすかしていたが、次郎を見つけると恐ろしい勢いで飛びついて来た。そのために次郎のもっていた提灯は、地べたに押されて、ひしゃげそうになった。
「なんてずうずうしい子なんだろう。……さあ提灯をおよこし。」
お民は、ひったくるように提灯をとると、その中に手を突っこんで、マッチを取り出した。
ぱっとともるマッチの火に照らされたお民の顔は、気味わるく硬ばっていた。
どこかで、煩悩鷺《ぼんのうさぎ》がほうほうと鳴いた。
提灯をともし終ると、お民は次郎の手を鷲づかみにして、引きずるように歩き出した。その足どりがやけに速い。次郎は、何度も引き倒されそうになったが、息をはずませながら、やっとついて行った。草履の音と、下駄の音とが騒がしく入り乱れる。
村に這入ると、お民の足どりが急に落ちついて来た。同時に握っていた次郎の手を放した。
村といっても、一本筋の場末町みたいなところで、駄菓子屋、豆腐屋、散髪屋、鍛冶屋、薬屋、肴《さかな》屋などが曲りくねって、でこぼこにつづいている。その間に、種油を搾《しぼ》る家が、何軒もあって、その前を通ると香ばしい匂いが鼻をうった。
どの家からも、蚊遣《かやり
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