て、こっそり耳うちした。それは春子が東京に去ってから数日後のことであった。
彼は相変らず、「いじらしい子」ではありたかった。しかし、春子が去ったあと、彼が心にもない善行をつづけていくには、彼の心はあまりにも淋しかった。それでなくてさえ、花火の誘惑は、このごろ日ごとに彼の心を刺戟して、もうじっとしては居れなくなっていた。で、今日はとうとう誠吉に例の貯金の中から銅貨を何枚か渡して、誰にも秘密に、硝石と硫黄とを少しばかり買って来てもらったのである。
彼は誠吉を手真似で制しておいて、そっと病室の方をのぞいてみた。母はしずかに眼をとじている。敷布の上をはっていた蠅が、彼女の額に飛びうつったが、彼女はかすかに眉をよせただけである。蠅はすぐまたどこかへ飛んでいってしまった。祖母も茣蓙をしいて向うむきにねている。夜中に眼をさますことが多いので、午後になると、大ていぐっすり昼寝をする習慣になっている。ことに次郎が近くにいると、祖母は安心してねるのである。
次郎は、お祖母さんが眠っている時に出て行くのは悪いような気がして、ちょっとためらった。しかし、正木の家では、花火は危険だからと言って、なるだけ子
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