たしが怒ったからでしょう。堪忍してね。」
 春子は微笑しながら言った。しかし東京行きのことは、みんなの調剤が終るまで一言も言わなかった。そして次郎が薬壜を受取って、部屋を出ようとすると、
「あたしがお薬をこさえてあげるの、これでおしまいよ。」
 と言った。その声は少しさびしかった。次郎はふりかえって、じっと春子の顔を見た。春子も彼を見つめた。
「いつ東京にたつの?」
「五六日してからだわ。でも、今夜あたしの代りをする人が来るんだから、明日からはその人にやっていただくの。」
 次郎は默って歩き出した。すると春子は、
「ちょっと待っててね。」
 そう言って奥に走って行った。そして紙に包んだものをもって帰って来ると、
「今日は竜ちゃんがいないから、これ、帰ってから食べてちょうだいね。」
 次郎は泣きたくなった。彼はほとんど無意識に紙包を受取ると、默って外に出た。
 午後の日は暑かった。彼は大川の土堤に来ると、斜面の櫨の木の陰にねころんだ。そして紙包から菓子を出して、むしゃむしゃたべながら、青空の中に春子の顔を描いていた。

    三六 火傷

 村の夏祭が近づいて、大川端で行われる花火の噂
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