お延は、むろん、誠吉を戒める材料に、しょっちゅう次郎を引合いに出した。謙蔵ですら、子供たちがあまりそうぞうしいと、
「少し次郎ちゃんに見習って、勉強するんだ。」
とどなることがあった。
正木のお祖父さんだけは、不思議に何とも言わなかった。言っているのかも知れなかったが、次郎の耳には少しもはいらなかった。次郎にとっては、それはたしかに物足りないことの一つであったが、しかし、そのために彼は決して悲観はしなかった。なぜなら、この家で、お祖父さんは彼の第一の味方であり、その第一の味方が、他の人たち以上に彼を讃《ほ》めていないわけはない、と彼は確信しきっていたからである。
ところで、そうした讃辞《さんじ》は、次郎にとって大きな悦びであると共に、また強い束縛《そくばく》でもあった。彼はいつも人々の讃辞に耳をそばだてた。そして、一つの讃辞は、やがて次の新しい讃辞を彼に求めさせた。彼は、彼自身の本能や、自然の欲求に生きる代りに、周囲の人々の讃辞に生きようと努めた。それも彼の本能の一つであったといえないことはないかも知れない。しかし、そのために、彼が次第に身動きが出来なくなって来たことはたしかだっ
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