にそれを削りはじめた。
「おや、いないの?」
お延の足音が梯子段を上って来た。次郎が、鉛筆と小刀を持ったまま、あわてて立ち上ると、もうお延の顔が覗いていた。
「まあ、返事をしないものだから、どうしたのかと思ったわ。……父さんが呼んでいらっしゃるから、すぐおりてお出で。」
次郎は、異様な緊張を感じながら、お延のあとについて階下におりた。
座敷には、もう謙蔵の姿は見えなかった。俊亮と老夫婦とは、相変らず硬い顔をして坐っていた。次郎は、俊亮にお辞儀をして、窮屈そうにその前に坐ったが、その眼は、みんなの顔を見くらべては、すぐ畳の上に落ちていくのであった。
「次郎、お前には、これから、母さんにしっかり孝行をして貰わねばならんが……」
俊亮はかなり永い間次郎を見つめてから、いつもに似ぬおもおもしい口調で言った。
次郎は、そう言われただけでは、むろん返事のしようがなかった。彼はただ、自分のことについて、父が何か重大なことを言い出そうとしていると思って、いよいよ固くなるばかりであった。
「母さんも、もう二三日すると、こちらにご厄介になることになったんだよ。」
次郎はわけがわからなかった。し
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