はそれでいくらか気が強くなる。
「困った子になってしまったわ。」
次郎は、胸のしんに異様な圧迫を感じた。お浜は返事をしない。しばらくは、団扇の音だけが、ばたばたと聞える。
「とにかく、今夜はどんなことがあっても、つれて帰るつもりでやって来たんだからね。……まだ寝ついてはいないんだろう。」
急に団扇の音がやんで、誰かが立ち上るような気配《けはい》がした。
次郎は唾《つば》をこくりとのんで、爺さんの方に寝がえりを打った。そして鼾《いびき》をかくまねをした。しかし、彼の瞼《まぶた》はぶるぶるとふるえて、心臓の鼓動が乱調子なのを物語っている。
「明日になすったらどうでしょう。こんなに暮れてからでは、余計おかわいそうですわ。」
「何時だって同じさ。まさか怖いことはあるまいよ。男の子だもの。」
「でも、こんなことは、やっぱり昼間の方がようございますわ。明日になったら、今度こそ本当にご得心《とくしん》がいくように、私から申しましょうから。」
「駄目よ、お前では。……いつも、あべこべに引きとめるようなことばかり、言って聞かすんだろう。」
「そんなことはありませんわ。とにかく明日までお待ち下さいま
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