心を一層悲しくさせた。出来るなら、一緒について行きたい、とも思う。
しかし、魅力《みりょく》は何といっても正木の家にある。ついては行きたいが、いざ正木を離れると思うと、温かいふとんの中から急に冷たい畳の上に放り出されるような気がする。せめて本田のお祖母さんさえいなけれは、と思うが、現にその蛇のような眼が、自分を見つめている。やっぱり、ついて行くのはいやだ。
「どうだい、一緒に行くか。」
「…………」
「やっぱり、ここにいたいのか。」
「…………」
「どうした? 默ってちゃわからんが。」
「…………」
「母さんは、お前をつれて行きたいって言うんだ。」
次郎は、伏せていた眼を、ちょっとあげて父を見た。しかし、返事はしない。
「ところで、お祖父さんは、お前をこちらにおきたい、とおっしゃるんだ。」
次郎は、正木の老人の方をちらりと見た。が、またすぐ眼を伏せてしまった。
「困ったな。そうぐずぐずじゃあ。……だが、まあいい。今夜は、みんなこちらに泊るんだから、明日の朝までによく考えておくんだ。いいか、お前の好きなようにしていいんだからな。」
俊亮は、そう言って縁側を去ろうとした。すると、次
前へ
次へ
全332ページ中232ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング